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事例とレポート

SOHOの契約・債権管理について No.2

2005/04/27 14:25

1、何のために契約するのか?
今回は、「なぜ、契約するのか?その目的は何なのか?」のお話です。
この質問を、弁護士等法律屋さんにすれば、「それは、当事者間の権利・義務の内容と範囲を確定するためである」と云う答えが返ってくるのが、通常でしょう。
私の前回の「ツボ」を読んで頂いた方も、この答えに納得されるかもしれません。
確かに、この答えは間違いではありません。
それどころか、「全く正しい」と言って良いでしょう。
しかし、この答えは、契約を結ぼうとする当事者に、契約書を作るべきか作らざるべきか、作るとしても、どのような条項を入れるべきか又入れるべきでないか、などなどについて有効な問題意識を持って頂くのには、(当然の前提として押さえてもらう必要があるにしても)役に立たないのではないか?と思います。
先に書いたような問題意識を持って頂くためには、「契約はリスク・マネジメントの観点から考える」と云う視点が必要です。

2、リスク・マネジメントとは?
「リスク・マネジメント」と云う言葉は、お聞きになったことがあるでしょう。
雪印等の企業がスキャンダルにより経営危機に直面したときなど、マスコミは盛んにこの言葉を使っていますね。
しかし、「リスク」というのは、そもそも潜在的なものであり、企業スキャンダルが発生し、リスクが現実化したケースでは、「リスク・マネジメント」ではなく、「クライシス・マネジマント」が必要な場合になります。
「リスク・マネジメント」には、明確な定義が無いと言われていますが、私の理解では、一応「企業活動等に伴って将来おこりうる、不確定で、かつ、企業等に悪影響を与える事態(=リスク)を、予め発見・予想し、分析し、対策を考えておき、企業等が、破局を迎えないように、そのリスクをコントロールできるようにしておくこと」と言えるのではないか、と思います。
そして、「リスク・マネジメント」の基本的な手法としても、リスクを、

1.回避する。
2.軽減する。
3.転嫁する。
4.保有する。


と云う4つの手法があるとされています。
なにか、分ったような分らないような話になってしまいました。

3、リスク・マネジメントと契約
そこで、こんな例で考えてみてはどうでしょうか?
この例は、金融デリバティブ取引を説明する例として用いられたものですが、リスク・マネジメントの一環としての契約の意味を考える上で、分り易くて、なかなか示唆に富んでいます。
あなたに、現在つき合っている恋人がいるとします。
で、あなたは、今年のクリスマスを、相手は誰かはともかくとして、恋人と過ごしたい(一人で過ごしたくない)、と考えているとします。
しかし、あなたと今の恋人がクリスマスまで恋人同士である保証はありませんね。
つまり、あなたにとって、今年のクリスマスを一人で過ごしてしまうリスクがある、と云うことになります。
あなたの恋人も、同様の考えで、同様のリスクを抱えています。
そこで、あなたと恋人は、「今年のクリスマスを一緒に過ごす」と云う約束(デート契約)をします。
つまり、あなたと恋人は、デート契約によって、「今年のクリスマスを一緒に過ごす相手が居ないかもしれない」と云うリスクを回避した訳です(厳密に言うと、デート契約をしていたとしても、生身の人間のことですから、事故や病気でデートできないこともあり得ますから、リスクを「回避した」と言うようりは「軽減した」と言うべきでしょうね。尚、「相手が約束を守らず、他の男(女)に乗りかえてしまった」と云う事態は、説明の都合上、無視します。しかし、現実社会では、この事態が最も起こりやすいので、「契約したから安心」ではない、と云う教訓になる訳ですが・・・)。
ところで、このデート契約の成立をもって「メデタシ、メデタシ」と云う訳ではありません。
そうです。あなたは、このデート契約によって、「今年のクリスマスに、新しい、もっと良い男(女)とデートできる可能性」を捨ててしまったことになるのです。
で、現実のクリスマスは、お互い仏頂面で、おもしろくなく過ごすことになるかもしれません。
お互いに、このような事態を割り切ることができれば、それでおしまいですが、人間と云うのはなかなか欲どしく出来ており、そうすんなりとは諦め切れないものです。
そこであなたは、恋人と交渉して、このデート契約に「予め、恋人が指定したブランド物をプレゼントすれば(ペナルティーを履行すれば)、あなたはデート契約の拘束から免れることができる」と云う特約条項を入れることに成功しました。
そうすることによって、あなたは、

1.現在の恋人と、クリスマスを一緒に過ごす。
2.ブランド物を手に入れて現在の恋人にプレゼントし、他の男(女)とクリスマスを一緒に過ごす。

の選択権を獲得することになった訳です。
もっとも、あなたの恋人も、あなたと同じことを考え(「類は朋を呼ぶ」と言いますよね)、この特約は相互的なものになるかもしれません。
そうすると、あなたは、今年のクリスマスを一人で過ごす破目に陥るかもしれませんが、そのときは欲しかったブランド物が手に入る訳ですから、あなたの心は慰められ(代償を得ることによることによるリスクの軽減)、良しとしなければならないのかもしれません。
勿論、あなた又はあなたの現在の恋人が異性にもてるかどうか(と、言うより、自分でもてると思っているかどうか)によって、契約のあり方は随分と違って来る筈です。
「クリスマス当日でも、現地調達できる」自信のある人なら、変に拘束されたり、ペナルティーを負担するリスクを嫌い、何の契約も結ばずに、リスクを「保有する」(=引き受ける)という選択もあり、でしょう。
同様に、何の契約も結ばず、現在の恋人以外に二股、三股をかけておき(保険を掛ける)、リスクを「転嫁する」(転嫁されそうな人は、「保険料」を取っておく必要がありますね)と云うことも考えられます。
このように、自社が置かれている状況をよく分析し、少しでもリスクを少なくするポジションを取っていく、という「リスク・マネジメント」の一環として契約を考えるという視点は、とても大事です。
前回、「契約書を作らない方が良いこともある」と書いたのは、このような視点からです。
例えば、力関係で相手が明らかに上である場合、なまじ契約書を作ることにすると、不利な条件を次々と押し付けられる、と云うことがあり得るのです。
そこで、場合によっては、敢えて契約書は作らず、発注書・請書、メール、ファクシミリのやりとり(あるいは、会話の録音)等を使ってできるだけ不利でない契約書を作ったのと同等の効果をあげる、ゲリラ的戦法も考えなければなりません。
勿論、状況によって、「これ以上不利にならないように(最低限のポジションを確保する為に)契約書を作る」というのもあり、ですが。
このような視点から、問題意識を持って契約条項を読んでいくと、色々なことに気付いたり、様々な疑問が生じるようになります。
それを、弁護士にぶつけて相談するならば、弁護士の方もアイデアを出し易く、非常に有効なコンサルティングを受けることになるでしょう。

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